瓦礫と故郷

セシウムは沸点が641℃ですから、700度以上で燃焼しますと、ガス化して、バグフィルターをすり抜けます

国の文化は、国民の心と魂に宿るものです。
遺跡や町が跡形もなく焼かれてしまうかもしれません。しかし遺跡も町も、やがては時の経過で廃墟となるしかない・・・(M.K.ガンジー)

 市町村の焼却炉で放射能が含まれている瓦礫を焼却しようという動きがあります。瓦礫に放射能が含まれていても、バグフィルターで除去できるから大丈夫と言われていますが、市町村の焼却炉では、ダイオキシン類特措法があり、通常燃焼で800度以上、2次燃焼で850度以上が定められています。セシウムは沸点が641℃ですから、700度以上で燃焼しますと、ガス化して、バグフィルターをすり抜けます。しかし、641度以下の燃焼は、市町村の焼却炉では、許されていません。
 ですから、市町村の焼却炉で瓦礫を燃やせば、確実に、放射能汚染を拡散させることになってしまいます。今回の原発事故で放射能汚染を免れた地域の焼却炉で瓦礫を燃やせば、せっかく汚染を免れた地域も汚染地域となり、そこでとれる農産物も安全ではなくなります。子どもたちが安心して住める場所も、子どもたちに食べさせてあげられる日本の農産物もなくなってしまいます。
 瓦礫の焼却に反対することに対しては、被災地の子どもたちが被曝し続けても良いのか?という反論があることは知っています。汚染されなかった地域のエゴではないかと
福島の人々が故郷を愛する気持ちは、理解しているつもりです。でも、今回のことに関しては、どうすることもできないほど汚染されてしまった福島原発周辺地域に、瓦礫を集めるしかないのではないかという気がしています。そして、瓦礫が自然発火する可能性があるのであれば、そこに、放射性廃棄物専用のフィルターを完備した焼却炉を建設して、セシウムの沸点以下の温度で焼却する必要があると思います。

 その上で、私たちの心の中にある故郷を大切にしていければと思うのです。
 ガンジーは、戦時中、日本による攻撃で苦しむ中国の人々に向けて次のように語っています。

「国の文化は、国民の心と魂に宿るものです。・・日本がどれほどの物質的ダメージを与えるとしても、中国の文化に破壊をもたらすことはできません。・・遺跡や町が跡形もなく焼かれてしまうかもしれません。しかし遺跡も町も、やがては時の経過で廃墟となるしかない束の間の見世物に過ぎません。日本人によって、破壊されるとしても、時間という口から奪い取った一口に過ぎないでしょう。我々の魂を損なうことは、日本人にはできません。仮に、中国の魂が傷つくとすれば、それは日本のせいではありません。」(Harijan, 28-1-1939)

 福島の文化も、原発で破壊されるようなものではないはずです。福島県民の命をつなげていくことができれば、福島の土地を離れても、その文化は生き延びていくのではないでしょうか?。
 どんなに長生きな人でも、100年後には今生きているほとんどの人が、この世を去っているでしょう。私たちはみんな、地球というお宿に滞在させてもらっている寄留者です。どんなに愛着のある故郷でも、みんなそこから旅立って行かざるを得ないのです。大地を携えて旅立つことはできません。でも、旅立つときに故郷の素晴らしい思い出で心が満たされていれば、幸せなことでしょう。
 そして、これからも、私たちは、素晴らしい思い出を作っていくことはできると思うのです。そして、素晴らしい思い出づくりに必要なものは、原子力発電所でも、工場でも、高速道路でも、ダムでもなく、豊かな自然と、そこで汗を流して働く人々の絆であることに、私たちは気づいたのではないでしょうか。
 今は、新しい土地で、もう一度一からやり直してみるチャンスなのかもしれません。伝統文化はそのような新しい暮らしの中でも、そういう暮らしの中でこそ伝えられるような気がしています。農村の暮らし、農村の知恵、おばあちゃんたちの知恵を忘れつつあった私たちですが、今ならまだ間に合います。瓦礫ではなく、被災者を受け入れることで、本物の日本文化を花開かせることができたら素敵だと、私は思っています。

ママの願いネットワーク秋田県南でも、学習会などを行っています。